研究プロジェクト
難民移民ドキュメンテーション・プロジェクト(The Project of Compilation and Documentation on Refugees and Migrants, CDR)
本プロジェクトは,難民移民に関する最先端の研究を通じて得られた知見を,講義や各種公開イベント等を通じて広く社会と共有しようと始まりました。寄附講座「難民移民(法学館)」によって2010年から15年3月まで運営されてきたものですが,引き続き本研究センターの中核的な研究として発展中です。これまで寄附講座に様々に関与してきた研究者や実務家たちが、引き続きセンターの活動に積極的に携わっています。
世界の難民及び国内避難民など移動を余儀なくされた人々の数は6000万人を越えるとも言われ,昨今では,アフガニスタンやシリアなどにおける紛争関連の人の流出への対応(人道的保護)だけでなく,個別の政治活動家や少数者たちの迫害への対応(法的保護)という国際的問題が,ますます広く深く問われています。特に,大学は,研究組織としても教育機関としてもこのようなグローバルイシューに取り組むことを期待されています。
CDRは2015年,難民及び国際的保護のためのアジアのネットワーク(ANRIP/Asian Network on Refugee and International Protection )の活動を通じて,内外から大きな信頼を得るに至っています。ANRIPとは,アジア各国における難民認定作業の質を国際基準に従って向上させること等を目的として,日本,韓国,香港,フィリピン,ニュージーランドの5カ国,地域より,政府関係者,裁判官,弁護士,国際機関,NGO,研究者といった多様なバックグラウンドを有するものが集まり,結成されたものです。2014年11月にCDRと「人間の安全保障プログラム」(HSP)が駒場キャンパスで開催した国際シンポジウムにおいて設立が合意されました。ANRIPはその後も順調に発展を遂げ,2016年1月にフィリピンで第一回大会が2日間に渡って開催されたほか,6月には韓国ソウルで難民法裁判官国際協会(IARLJ)のアジア大会の際に第2回の会合が,11月には香港で第3回大会が行われています。
また,CDRは,日本国内における難民政策を議論する場としての難民政策プラットフォーム(RPP)も2015年に立ち上げています。
これまで,法務省,外務省,弁護士,NGO, 研究者などすべてのステークホルダーの参加を得て,数ヶ月に1度,公開のセミナーなどを開催してきています。
さらに, CDRでは難民該当性判断に資するため「出身国情報プロジェクト」も進めています。難民認定申請者が難民としての法的保護を受けるためには,自身の難民該当性,例えば,難民条約第1条A(2)で規定されるような,国籍国による迫害を「受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」者であることを示さなければなりません。そうした法適用の前提となる事実確認に資するのが難民の出身国情報(COI / Country of Origin Information)であり,これを無償で提供する試みをCDRが行なっています。
これは,世界的に見ても稀有な取り組みで,高度な専門性を必要とする極めて意義の大きな社会貢献として,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などからも高い評価を受けております。また,この試みは企業の社会的責任(CSR)の観点から参画する民間企業の協力も得ながら行われており,CDRの社会連携,国際連携の側面強化も果たしています。