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2024.12.19レポート

特別HSPセミナー「国連平和活動:最近の動向、課題、そして将来の展望」開催報告


 

 2024年11月21日、ジャン=ピエール・ラクロワ国連平和活動担当事務次長が、東京大学駒場キャンパスにおいて、国連平和維持活動の現状と将来の展望について、特別講演を行いました。本イベントは、東京大学 大学院総合文化研究科 人間の安全保障プログラム(HSP)が主催し、外務省、東京大学持続的平和研究センター(RCSP)が共催、国連広報センター(UNIC)が後援しました。司会は、RCSPセンター長で国連に委託された平和維持活動の未来に関する独立研究グループのメンバーである、キハラハント愛教授が務めました。

 

 ラクロワ事務次長は、国連平和維持活動の包括的な概要を説明し、現在世界中で11の活動が展開されており、約7万人の要員(軍事要員5万5千人、警察官6千人、ほか文民要員)がこの活動に従事していることを紹介しました。これらの活動に対する年間予算は56億ドルです。事務次長は、日本の国連平和維持活動への継続的な貢献を特筆すべき貢献として取り上げ、日本が平和維持活動と国連通常予算の双方において第3位の資金拠出国であること、また活動要員の訓練プログラムにおいても重要な貢献を行っていることを強調しました。

 

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ラクロワ国連平和活動担当事務次長 (右側)と キハラハント愛教授(左側)

 

 次に、事務次長は、国連平和維持活動が直面する複数の重要な課題を提起しました。第一に、現在の国際社会の分断化によって、危機に対する効果的な多国間対応が著しく妨げられていると指摘しました。今日、第二次世界大戦以降で最多となる紛争が発生しており、その多くが実効性のある政治的解決プロセスを欠いているとの認識を示しました。第二に、非国家主体の増加、国際的な犯罪活動の拡大、テロの脅威、さらには気候変動が紛争に及ぼす影響など、新たに生じている課題群を取り上げました。第三に、新興技術の台頭に伴う課題、特に平和維持活動の遂行を阻害する可能性のある誤情報や偽情報の拡散を指摘しました。

 

 こうした課題が山積する中にあっても、ラクロワ事務次長は、国連平和維持活動の適応と改善に対する国際社会からの力強い支持を背景に、活動の将来について前向きな見通しを示しました。事務次長は、今般採択された「未来のための協定」を紹介し、本協定の主な優先事項として、政治的支援の強化、より焦点を絞ったマンデート(活動展開における権限・任務)、要員の安全確保の強化、活動における女性の役割の拡大、そして紛争の根本的な要因へのより良い対処などを挙げました。

 

 最後に、ラクロワ事務次長は、今後注目すべき4つの事項を提示しました。具体的には、国際的な分断の中で国連平和活動が持つが潜在的な機会を活かす重要性、紛争終結時の第三者調停者としての国連の不可欠な役割、より高い機動力・費用対効果・技術力を備えた活動モデルの必要性、伝統的な平和維持任務を超えた新たなアプローチの確立の重要性です。今日、停戦監視のような伝統的な活動でさえ、従来とは根本的に異なるアプローチが求められていると強調しました。

 

 特別講演に続いて、キハラハント教授が、国連の委託を受けた「平和維持活動の未来に関する独立研究(Independent Study on the Future of Peacekeeping,※英語版のみ)」の概要を発表しました。同研究では、今後の活動に向けた30の活動モデルを提示するとともに、平和活動の効果的な実行のための9つの主要な能力と10の成功要因を特定しています。

 

 その後の質疑応答では、ラクロワ事務次長が、国連安全保障理事会の改革、地域機関との連携、効率的な活動の在り方、国連平和維持活動への包括的な参加など、幅広い質問に答えました。

 

 本セミナーには、東京大学の教職員、学生、実務専門家が一堂に会し、複雑化する国際情勢の中で進化を続ける国連平和維持活動の在り方と今後の方向性について、有意義な議論が展開されました。

 

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(文責:杉本 智美)