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イベント報告2023.11.10

HSPセミナー:Human Rights 75 and Universal Values(開催報告)

2023年11月1日、来日中のナダ・アル=ナシフ国連人権副高等弁務官を東京大学駒場キャンパスにお迎えし、「人権75と普遍的価値」と題したセミナーにおいて基調講演をして頂きました。同セミナーは、東京大学「人間の安全保障」プログラム(HSP)が主催し、国連人権高等弁務官事務所(UN-OHCHR)と持続的平和研究センター(RCSP)の共催で開催されました。HSP運営副委員長である受田宏之教授による開会挨拶の後、キハラハント愛教授が司会を務めました。アル=ナシフ氏には、東京大学の教員や学生、実務家らを前に、人権の実現に向けた次世代の課題への取り組みについて基調講演を行って頂きました。


基調講演では、まず、今年が世界人権宣言75周年であることに触れ、この宣言が採択されて以来、人権の原則が国際社会のコミットメントと行動を支えてきた一方で、世界は現在、目標の実現に対する多くの脅威を目の当たりにしているという指摘がありました。具体例として、第一に、ウクライナや中東のような場所で発生している暴力的な紛争が一般市民に与える顕著な影響をあげ、「私たちは、第二次世界大戦後、最も多くの暴力的紛争に直面している」と述べました。他にも、ミャンマーやアフガニスタン、スーダン、ハイチなどにおける政治的危機、民主主義の後退、法の支配に対する軽視の広がりといった複数の事例にも触れ、これらの課題が、COVID-19パンデミックによる壊滅的な被害から回復するための世界的な苦闘の上にさらにのしかかっているという指摘がありました。第二に、極度の貧困状態にある人々の数が増え続けていることや、教育や保健、生活へのアクセスにおける構造的な不平等の実態から分かるように、国際社会が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に遅れをとっており、こうした不平等が、社会で最も脆弱で、疎外された層の人々をさらに露呈させていることは残念であると述べました。第三に、グローバルな市民空間が減少し、人権擁護に携わる者やジャーナリストに対する脅威がさらに高まり、その結果、法執行機関に対する国民の信頼が失われているという指摘がありました。第四に、「安全、清潔、健康的で、持続可能な環境は人権である」ということが広く認識されているにもかかわらず、気候変動の危機や気候正義(climate justice)の要請に対する集団的失敗についても言及がありました。


ナダ・アル=ナシフ国連人権副高等弁務官(右)とキハラハント愛教授(左)


こうした状況を踏まえ、経済的・社会的な意思決定や政策が人権と環境保護によって導かれることを保証する青写真として、「人権(に基づく)経済(human rights economy)」の概念を支持し、推進することを求めました。そして、この「人権(に基づく)経済」の枠組みを実現するために、世界人権宣言が75年前に採択された際の人権に関するコンセンサスを取り戻すことを提案しました。参加者全員が、75年にわたる人権の精神を変革する触媒になることを奨励し、世界人権宣言の起草に重要な役割を果たしたエレノア・ルーズベルト(Eleanor Roosevelt)の「未来は、夢の美しさを信じる人々の手の中にある」という言葉を引用し、基調講演を締めくくりました。 



基調講演の後は、アル・ナシフ氏とセミナー参加者との間でディスカッションが行われました。言論の自由、移民と難民の権利、異なる財政的・経済的な背景を超えた人権保護、宗教・道徳・法・人権のつながり、普遍性と文化相対主義をめぐる長年の論争など、様々なトピックについて質問がありました。


アル=ナシフ国連人権副高等弁務官による基調講演の内容は以下のリンクから御覧頂けます。

英語版 日本語版(仮訳:落合 優衣、キハラハント 愛)


文責:Raymond Andaya(レイモンド アンダヤ)、訳:北川 拓人

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